本日の名言
現代の文明は、
単純に「進歩」を目指しすぎるあまり、
老人に対しても「いつまでも若い」というまやかしをして、
問題の本質をごまかそうとしています。
発言者:河合隼雄(臨床心理学者)
河合隼雄さんってどんな人?
日本の心理学者、臨床心理学者です。
私の説明
おはようございます。
2025年12月5日
「いつまでも若々しく」―この現代の呪文は、単なる個人的な願いを超え、社会全体を覆う巨大なプレッシャーとして機能しています。しかし、その普遍的な願望の裏に、現代社会が巧みに隠した大きな問題が潜んでいるとしたらどうでしょうか。
私たちの社会は、絶えず「若さ」を賛美し、それを維持することが価値であるかのようなメッセージを送り続けています。この終わりのないプレッシャーのなかで、私たちは何か大切なことを見失っているのかもしれません。本記事では、日本を代表する臨床心理学者・河合隼雄氏の鋭い言葉を手がかりに、この「若さ」という幻想の正体と、その裏に隠された問題の本質を掘り下げていきます。
1. 止まらない『進歩』が私たちから奪うもの
現代文明の根底には、「進歩」への飽くなき追求があります。テクノロジーは日進月歩で進化し、私たちの生活はより便利で快適なものになりました。しかし、河合氏が指摘するように、私たちは「単純に『進歩』を目指しすぎ」ているのかもしれません。常に前へ、常に新しく、常に改善を求めるこの姿勢は、老化のような自然なプロセスさえも「乗り越えるべき課題」や「避けるべき不具合」として捉えさせてしまいます。本来、人生の一部であるはずの「老い」が、まるで解決すべき問題のように扱われるようになったのです。「進歩」という名の前進しか認めないこの価値観は、やがて人間の自然な時間経過そのものを敵とみなし、社会全体で巨大な幻想を作り出すことになります。
2. 社会が作り出す『いつまでも若い』という幻想
「進歩」という価値観は、次に「若さ」への執着を生み出します。広告やメディアはアンチエイジングを謳い、年を重ねても若々しく活動的であることが理想であるかのようなライフスタイルを提示します。河合氏が言う「老人に対しても『いつまでも若い』というまやかし」とは、まさにこのことです。社会全体が、まるで「若さ」が永続可能であるかのような幻想を作り出し、私たちにその幻想を追い求めるよう仕向けているのです。
この構造について、臨床心理学者・河合隼雄氏は次のように喝破しています。
現代の文明は、
単純に「進歩」を目指しすぎるあまり、
老人に対しても「いつまでも若い」というまやかしをして、
問題の本質をごまかそうとしています。
3. 私たちが本当に向き合うべき『問題の本質』とは何か
河合氏の言葉で最も重要なのは、最後の「問題の本質をごまかそうとしています」という部分です。では、私たちが「若さ」という幻想を追い求めることでごまかし、直面することから逃げている「問題の本質」とは、一体何なのでしょうか。
それは、老いや死という有限性を受け入れ、その限界の内にこそ存在する人生の各段階の独自の価値を見出し、移ろいゆく自分自身を肯定することではないでしょうか。若さの幻想は、こうした根源的な問いと向き合うことから、私たちの目をそらさせてしまうのです。
臨床心理学者・河合隼雄氏の言葉は、現代社会が抱える根深い問題を浮き彫りにします。止まることを知らない「進歩」への信仰が、「若さ」という永続不可能な幻想を生み出し、その結果として、私たちは老いや死といった人生の本質から目を背けている──。これが、彼の警鐘の核心です。若さを追い求めるあまり年を重ねることでしか得られない知恵や円熟を見過ごす社会。その絶え間ない「進歩」の先に待つのは、果たして真の豊かさと呼べるのでしょうか。


